文京区には東京大学もあり、23区のなかでは比較的教育に熱心な区として知られています。
先日、文京区全域の路線価を確認していたところ「なるほど、そういうことか」と思えることがありましのたで、文京区のなかでは人気の小学校「3S1K」と絡めながら、小学校の学区とその学区の特徴についてお伝えします。
※ ネットで「3S1K」で検索すると不動産会社が営業の一環で記載した記事が散見されますが、この記事は営業ではなく、自身の見聞に基づいて、これからお子さんが小学校に入学される保護者の方のために本音で語ります。
文京区の人気小学校3S1Kとは
まずは文京区の人気公立小学校について確認します。
既にご存じの方も多いと思いますが「3S1K」とは、千駄木小学校、昭和小学校、誠之小学校の頭文字をとった3Sと、窪町小学校の1Kを合わせた呼び名のこと。
なぜ人気なのか、ハッキリした理由はわかりませんが、(おそらく)その理由の1つは中学受験に熱心な子(親)が他の地区に比べてかなり多いこと、言い換えると教育に熱心な親御さんが多いことだと思います。
当事務所は窪町小学校の学区にありますが、近所にはSAPIXなどもあり、熱心そうに通っているお子さんや、塾の前でお子さんの帰りを待っている親御さんの姿を頻繁に目にします。
ところで、東京都教育委員会が公表している「令和3年度 公立学校統計調査報告書」を基に作成した国立私立中学への進学率は次のようになります。
最新のランキングです。
東京23区 国立私立中学への進学率ランキング
東京23区 | 国立私立中学進学率(%) |
1.文京区 | 51.37(1) |
2.港区 | 45.75(2) |
3.中央区 | 43.30(3) |
4.目黒区 | 41.45(5) |
5.千代田区 | 41.37(7) |
6.渋谷区 | 36.51(4) |
7.新宿区 | 36.42(8) |
8.世田谷区 | 36.31(6) |
9.豊島区 | 34.32(9) |
10.品川区 | 33.42(10) |
(令和3年度 公立学校統計調査報告書を基に作成)
令和1年度までは文京区、港区、中央区の上位3区はほぼ僅差だったのですが、令和3年度には文京区が頭ひとつ抜け出して、目黒区と千代田区が上位に食い込んできているという状況です。
目黒区は令和1年度の国立私立進学率36.59%、千代区の令和1年度進学率は34.49%だったので、令和3年度まではいずれも約5%上昇しています。
※ 進学率の横にある(カッコ)は、前々年度の順位です。
昭和小学校学区の土地価格
3Sのなかの1つ、昭和小学校の所在地は本駒込2丁目で、東大の前にも通じる本郷通りに面しています。
昭和小学校は本郷通りに面していることもあるせいか周囲が雑多で、物理的にも校舎と校庭はせせこましいという印象を受けてしまいます。
創立 | 昭和4年 |
所在地 | 文京区本駒込2-28-31 |
全校生徒数 | 771人(令和4年5月) | 各学年クラス数 | 3~5クラス |
昭和小学校は、忠臣蔵が好きな方にはお馴染みの柳沢吉保の下屋敷だった六義園と不忍通りを挟んだすぐ近くにあります。
六義園は回遊式築山泉水庭園で本当に巨大な庭で、紅葉の季節などは観光客でにぎわいますし、名所ですので海外からの観光客も多いです。
六義園周辺(本駒込)は昭和小学校の学区で、その周辺を散策すると立派な住宅が立ち並んでいて、(おそらく)土地の価格も高いんだろうということは容易に予想できます。
地域 | 土地価格(路線価) |
六義園付近(本駒込6丁目※) | 約89~97万円/㎡ |
※ 本駒6丁目の一部は、駕籠町小学校の学区です。
因みに、文京区の平均土地価格(路線価ベース)はざっくり60万円/㎡程度で、文京区全域を見渡しても30万円代/㎡の路線価は見当たりません(令和2年度の路線価)。
本駒込6丁目の路線価90万円/㎡~は、文京区の住宅街のなかでもトップクラスの価格です。
余談ですが、本駒6丁目は「大和郷」とも呼ばれていて、異次元の住宅街です。
誠之小学校学区の土地価格
誠之小学校の校舎は現在改築中で、2023年7月の工事完了予定です(写真は建築途中の校舎です)。
創立 | 明治8年 |
所在地 | 文京区西片2-14-6 |
全校生徒数 | 853人(令和4年5月) | 各学年クラス数 | 3~5クラス |
誠之小学校は東京大学から徒歩圏内にあり、本郷通りを挟んですぐ隣のエリアにあります。所在地は西片2丁目です。
西片と言えば、文京区のなかでは本駒と同様、高級住宅地として知られていて、周辺を通るとほとんどの住宅にセキュリティー会社のステッカーが貼られていることにすぐ気づきます。
高級住宅地と言えば、土地の価格が気になるところですが、西片2丁目の路線価は次の通り。
地域 | 土地価格(路線価) |
西片公園付近(西片2丁目) | 約85~92万円/㎡ |
西片エリアは戸建て住宅が多く、マンション等の共同住宅は少なく住居を確保しづらいので、誠之小学校学区への引っ越し条件が整いにくいのではないかと思いますが、令和4年度の新入生は前年比で+31人となっていて、転入組が相当増加したと予想されます。
誠之小学校がこれほど前年比で増加したのは、校舎が新しくなることも影響しているはず。
西片は閑静な住宅街で比較的落ち着いた雰囲気があり、マンション等も少ない印象がありますが、あのエリアに小学生が850人も住んでいるというのは少し驚きな感じがします。
(2022年11月撮影)
誠之小学校は今も工事中です。
千駄木小学校学区の土地価格
創立 | 明治42年 |
所在地 | 文京区千駄木5-44-2 |
全校生徒数 | 798人(令和4年5月) | 各学年クラス数 | 3~5クラス |
文京区の高級住宅地と言えば、本駒込と西片がよく知られていますが、千駄木も侮れません。
千駄木小学校界隈や、加賀藩支藩の大聖寺藩の屋敷跡だった須藤公園周辺には立派な戸建て住宅が立ち並んでいて、文京区に西片と本駒以外にこんなエリアがあったのかと驚かされます。
ですので、ここも土地の価格が高いと想像するのは難しくありません。
地域 | 土地価格(路線価) |
須藤公園付近(千駄木3丁目) | 約80~82万円/㎡ |
また千駄木小学校は、近くに大通りがあるわけではなく、3S1Kのなかで最も閑静な雰囲気だとも思います。
2つの管轄の土地の価格(路線価)を比較すると、相対的に本郷税務署管轄の土地価格の方が高いと思います。因みに、東京大学は本郷税務署の管轄です。
窪町小学校学区の土地価格
創立 | 大正15年 |
所在地 | 文京区大塚3-2-3 |
全校生徒数 | 904人(令和4年5月) | 各学年クラス数 | 4~6クラス |
校内にも入ったことがありますが、校内は綺麗で、(確か)オープンスクールだったはず。
窪町小学校の正門前を通る「春日通り」の名前の由来は、徳川三代将軍家光の乳母を務め、その後大奥を取り仕切った春日局にあると言われています。
当事務所が窪町小学校の学区内にありますので、同校の生徒の登下校の様子はほぼ毎日目にしますし、同じ学区内には国立小学校も2つありますので、茗荷谷駅前はいろいろな学校の小学生が行き交い、教育環境が充実しているような印象を持ちます。
※ 少しだけ学区外になってしまいますが、茗荷谷駅からほど近い東京学芸大学附属竹早小学校の生徒も行き交います。
因みに、春日通りを挟んだ向かいには中央大学法学部の建物が建設中で、2023年4月開校予定です。学校の目の前が中大法学部になります。
写真は、窪町小学校の前にある建設途中の中大法学部校舎です。
この学区の特色は他の3Sと違って、同じ学区内で、しかも学校のすぐ近くに筑波とお茶の水という国立の小学校が2校あり、平日は毎日、国立小学校の生徒のことも目にする機会に恵まれ、小学1年という早い時期から多様性を感じることができる点にあるのかなと思います。
窪町小学校は他区からの引っ越し(越境)はもちろん、他県からわざわざ引っ越しすることもあるようです。
冒頭で、東京23区の国立私立中学進学率についてお伝えしましたが、窪町小学校の中学「受験率」については文京区の「51.37%」を大幅に上回るということを耳にします。
さて、窪町小学校学区内で、集合住宅も多く立ち並ぶ播磨坂の土地価格は次の通り。
地域 | 土地価格(路線価) |
播磨坂(小石川5丁目) | 約95~124万円/㎡ |
播磨坂の路線価124万円という地点は、大通りでもある春日通りとの隣接部分でもあるので、この地点が高額になるのはやむを得ない。
窪町小学校の学区は、他の3S学区と比べて高級住宅は少ないという印象を受けますが、近所に文京区のスポーツセンターや教育の森、東大植物公園などがあり緑も多く住環境は良いと思います。
ただ緑が多いとはいっても、文京区のなかでは緑が多いだけで、郊外に比べれば緑が少ないことは言うまでもありません。
住居に関しては、マンション等の集合住宅は多いので(3Sのなかでは住居は見つけやすいはず)引っ越し・越境はしやすいかもしれない。
(引っ越しやすい反面、最近は生徒数が増えすぎてギューギューでパンパンと言われています。ですので、校舎については物理的な余裕はほとんどないようです。窪町小学校はとても良い小学校という印象を受けますが、ギューギューパンパンなので、割高な家賃や割高な物件を購入してまで今から引っ越しして入学するというのはどうかなというところです。地方からわざわざ都心に引っ越ししてまで入学するのは流石にやりすぎで、地元の国立小学校などを狙った方がいいのではないかと個人的には思います。)
因みに、窪町小学校は長期間にわたって毎年の新入生が前年比でプラスでしたが、令和4年度は久々に前年比でマイナス(▲10人)に転じました。
窪町は文京区一のマンモス校となってしまいギューギューパンパンなので、教育熱心な引っ越し組は窪町を敬遠し、誠之小学校(前年比+31人)などに切り替えたと考えることもできます。
また3S1K学区に限らず、文京区にある有名な塾全体に言えることですが、入塾希望者が多いために都心から離れた塾に比べて入塾するのが大変という特徴があると思います。塾側も実績作りに熱心なために、一番上のクラスには十分なフォローをする傾向にありますが、それ以外のクラスのフォローは手薄になりがちと言われています。その結果、他区の塾に入塾すれば一番上のクラスで十分なフォローを受けられる可能性があったにもかかわらず、激戦の文京区の塾に入ったがために、一番上のクラスに入れず、十分なフォローも受けられないというデメリットを甘受する可能性もあります。
私たちの事務所が窪町小学校の学区である茗荷谷にあり、このエリアのことは熟知していますが、茗荷谷の(大人にとっての)デメリットは近隣のエリアに比べて飲食店(飲み屋も含む)が少ない点にあると思います。ですので、生徒数が多い学区のわりには家族連れで食事をしているご家族を目にする機会はほぼありません。
窪町学区エリアのその他の特徴
文京区は坂が多くて有名ですが、窪町学区もその例に漏れず、坂がとても多いエリアです。学区内面積で考えると、平地は半分以下だと思います。ですので、このエリアでの生活には電動自転車はほぼ必須になります。
また意外に見落としがちな特徴としては、このエリアは都心5区に比べて「蚊」が非常に多いという印象があります。
蚊が多いのは、緑が多いことに加えて、占春園や小石川植物公園内の池、教育の森の水辺、国立小学校のプールなど水面も多いことが一因なのではと思います。
3S1Kの児童数増加率の比較
各小学校の特徴をお伝えしたところで、令和に入ってからの児童数増加率を比較してみました。
令和元年以降の3S1K児童数増加率を比較してみると、誠之小学校の増加率がダントツです。
その他の増加率は軒並み約10%中盤ですが、誠之小学校だけが約25%増加しています。
これは学校の新築が少なからず影響しているはず。
これほど増加すると、教員はもちろん、地域の方も大変でしょう。
文京区の人気公立小学校と土地価格の特徴
ここまで文京区の人気公立小学校と土地の価格についてお伝えしました。
勘の良い方は既にお気づきだと思いますが、3S1Kの学区には文京区のなかでもトップレベルの土地価格が高いエリアが含まれています。
土地の価格が高いということは、不動産価格、賃貸物件の賃貸料も必然的に高いということです。
不動産価格も賃貸料も高いということは、やはり比較的余裕のある方が居住されていて、人気の公立小学校にはそのお子さん達が通学していると想像できます。
特に、このエリアにわざわざ引っ越しされてきている方は、「教育熱心で」「比較的余裕がある」方が多いのでしょう。
「3S1Kは人気は高いが、学区内の土地の価格も相対的に高い」
学校名 | 正門前の路線価(R3) |
昭和小学校 | 1,070千円/㎡(文京区) |
誠之小学校 | 750千円/㎡(文京区) |
千駄木小学校 | 510千円/㎡(文京区) |
窪町小学校 | 1,270千円/㎡(文京区) |
番町小学校 | 3,210千円/㎡(千代田区) |
慶応幼稚舎 | 1,150千円/㎡(渋谷区) |
南青山小学校 | 2,250千円/㎡(港区) |
白金小学校 | 1,090千円/㎡(港区) |
雙葉小学校 | 2,090千円/㎡(千代田区) |
筑波 | 900千円/㎡(文京区)※ |
お茶の水 | 1,130千円/㎡(文京区) |
学芸大竹早 | 1,190千円/㎡(文京区) |
千代田区にある番町小学校正門前の路線価が飛び抜けて高いですね。
※ 筑波については、正門前(占春園門)に路線価が付いていないので、近接の路線価を用いています。
文京区の人気公立小学校その他の特徴
窪町小学校の中学「受験率」は文京区の国立私立進学率51.37%を大幅に超えているようなので、昭和、千駄木、誠之小学校も大幅に超えているはずです。
私たちの事務所が窪町小学校学区内にあるために、平日の仕事帰りや、週末の早い時間、遅い時間でも塾帰りのお子さん達を頻繁に目にしますが、かなり頑張っているような印象を受けます。特に、1月の直前期は受験モードです。
多くの高学年が中学受験に向けて頑張っている姿を低学年の子供たちが目にすれば、否が応でも小さいうちから必然的に中学受験を意識せざるを得ないはず。
補足:茗荷谷お金の貯まらない街にランクイン
先日、ある週刊誌に、窪町小学校のある茗荷谷がお金の貯まらない街として紹介されていました。茗荷谷はワースト3位とのことです。ランクインした理由もご紹介します。
1位 江戸川区 小岩
再開発が進行中。
2位 江東区 亀戸
ショッピング施設が増え、ファミリー層が増加
3位 文京区 茗荷谷
パチンコ屋はないが、中学受験の割合が都内一
教育課金地獄でかくれ貧乏が増加中の茗荷谷
3位は意外にも文京区の茗荷谷。名門大学や中高も多く質実剛健なイメージだが……。
「ここは夜遊びの誘惑ではなく“教育課金”に巻き込まれるのが怖いエリア。文京区は都内でも私立中学への進学率が最も高いのですが、茗荷谷はお茶の水女子大学や筑波大学などのキャンパスもあるせいか特に教育への意識が高い。塾や私立学校への課金がエスカレートして“かくれ貧乏”になりやすいエリアです」(日刊SPAより一部抜粋)